Ars cum natura ad salutem conspirat

作品調査と収蔵庫


現在、来年度の企画展にむけて作品調査を進めています。企画の趣旨にそう作品で国内の美術館で所蔵されているものを、実際に拝見するという作品調査です。ということは、よその美術館の収蔵庫、つまり展示されていない作品がしまってある倉庫へいれていただくという、貴重な体験をさせていただくということなのですね。収蔵庫とは、たいてい恐ろしく大きな金庫のようなもので、えらく分厚い鉄扉にダイヤル式の錠前がついており、ひどく物々しい感じの部屋です。映画で見るような金塊がしまってある部屋・・・といっては言いすぎかもしれませんが。収蔵庫へ入るということは、一種神聖なる空間への立ち入りに近いものがあり、さまざまなお作法があります。

まず、たいがいは靴をぬいで、用意されたスリッパ、ところによってはビニールサンダルに履き替えます。あみあげブーツなど履いていくのはご法度です。恐ろしく重い扉をしずしずと開けていただき、そして、一礼し「おじゃまいたします」とごあいさつしてから、入ります。このあたりで緊張感がたかまりますが、まず通過しなければならないのが、なぜか、ごきぶりホイホイの巨大版のような粘着テープ。スリッパの裏のゴミ、ほこりを収蔵庫内にもちこまないためですが、これがときどき粘着力が強すぎて足をすくわれ、実際に転倒してしまった女性学芸員もいるとか。よけて通ってはいけないものなので、要注意です。

そして、入ったところが、前室という玄関のような空間。庫内の温湿度など様々な意味での緩衝地帯です。さらなる第2扉を通過してとおされた収蔵庫内、ずかずか歩きまわったり、きょろきょろしたりはいけません。別に見られては困るものがあるわけではないはずですが、やはり、人様の舞台裏を覗き込むのは、はしたないし、エチケット違反ですね。しかしながら、整然と整理整頓された大収蔵庫あり、彫刻作品と段ボール箱がところ狭しと床を占領し、妙な部材がころがっている収蔵庫あり、本当にさまざまです。収蔵庫担当の学芸員は、その膨大な作品の位置をよく覚えていられるものと感心しきり。その中、ちょっと眼をひいたのは、作品の免震対策。ラックにかけた絵画作品をさらにさらし布でV字に固定したり、彫刻作品を柱にしばりつけたり、はたまた作品収納棚の引き出しが滑り出さないように、スティールの物干し竿!でおさえたりと様々な工夫が見られます。

阪神淡路大震災があってからというもの、各美術館ではあの手、この手で美術品保護にこれつとめているのだと実感。そのほか、環境調査のためのなぞの試薬が壁にぶら下げられていたりと実に勉強にもなった作品調査でした。


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