Ars cum natura ad salutem conspirat

アーカイブ:2010年09月


向井潤吉アトリエ館にて、ルーベンスの摸写作品を特別展示中


「私は毎日のように画室に掲げてある三枚の摸写の前に立って、じっと凝視(みつ)める習慣になった。すると当然のように、その模写につながる想い出が拡大したり、縮小したりして、私の若い日の苦渋と希望と緊張の織り交ぜた、パリの生活の片々を鋭くつき刺してなんとなく溜息が出るのである。」

向井潤吉「出戻る旧作」(昭和48年)より



「三枚の摸写」とは、現在展示中の《泉(アングルの摸写)》、《老人の頭(デューラーの摸写)》、《ばらの花を持つ女(ルノワールの摸写)》です。


ただいま向井潤吉アトリエ館では、「向井潤吉とルーブル美術館 その滞欧作の魅力」展を開催しています。この三点の他に《聖家族(ルイー二の摸写)》、《裁縫する若き女(ミレーの摸写)》も所蔵展示していますが、今回は特別に個人蔵の《エレーヌ・フールマンとその二児(ルーベンスの摸写)》も展示されています。


昭和2年から4年間にわたり、向井はルーブル美術館で21点もの摸写を熱心に描きました。画材や技法を探求するその仕事ぶりは、当時の日記帳(こちらも展示中)からうかがうことができます。帰国後に東京の丸善で摸写を集めた作品展を開きましたが、当時売れたのはルイーニの《聖家族》だけでした。それも「一面識のない通りすがりの基督教者」だったとエッセイに書き残しています。その後作品たちはさまざまな所蔵家の手にわたり散っていきます。


このルイー二は縁あって手元に戻ったにもかかわらず、アトリエの不審火によってティントレットやグレコの模写作品とともに焼けてしまいました。幸い焼け残りましたが、画面にはかなりの痛みがあります。やがて、手放した作品たちがポツポツと画商や画廊によって持ち込まれはじめ、向井の手元に返ってくるようになります。


チャンスがあれば摸写作品を引き取り、手元に残した向井ですが、とりわけルーベンスの作品には思い入れがあったようです。昭和47年の暮れに関西の画商から情報がもたらされとき、早速入手しようと連絡を取りました。ところがすでに人手に渡ってしまい、ひどく落胆したといいます。


今回はそのルーベンスの摸写が見られます。存在が確認されている摸写作品のなかでは最も大きく、《画家のアトリエ(部分)(クールベの摸写)》に並ぶ大きさです。原作と同じマホガニーの板が買えず、「五十号の枠にベニヤ板を接着剤で貼りつけて、その四方を隙間なく蓄音器の古針で打ち込んで地塗りを施し」たという、愛着の深い作品だったのです。


《遅れる春の丘より》をはじめ、民家の代表作も展示しておりますので、ぜひあわせてご覧ください。ご来館をお待ちしております。


パウル・クレー・センター


パウル・クレー・センター


9月になりましたが、まだ暑い日が続いております。

みなさまいかがお過ごしでしょうか。


当館では今、ヴィンタートゥール美術館からの作品を展示しております。

ゴッホ、ルソー、クレーなど全て日本初公開の作品ばかりです。

芸術の秋にぜひスイスのコレクションをご堪能いただけると幸いです。


清川泰次デザインのハンカチ


洋画家であり立体作家でもある清川泰次は、食器やアクセサリーなど、身の回りの様々な物のデザインも数多く手がけました。

世田谷美術館分館清川泰次記念ギャラリーでは、それらの清川泰次デザインの品物をミュージアムグッズとして販売しています。

今回は、その中から人気商品の一つであるハンカチをご紹介したいと思います。

ミュージアムショップを彩るハンカチは、色とデザインが豊富で、その数は23種類におよびます。ハンカチを広げると、そこには清川泰次の絵画作品にも共通するリズミカルな線や形がデザインされています。

清川泰次は画集「芸術とは何か」の中に、このように書いています。

「純粋芸術の追及から生れた「まねごと」でない斬新なデザインが色々と一般生活の中にとけ込んで用いられるようになって行くことが、少しは日本の文化向上のためになっているのではないかと思うと大変うれしい。」

このような清川泰次の想いのこもった品の中から、皆様もお気に入りの1品を選んでみてはいかがでしょう。清川泰次の世界をより身近に感じていただけることと思います。


清川泰次記念ギャラリーでは7月31日~11月28日まで

「清川泰次 自由への探求 〈もの〉にとらわれない世界へ」を開催しております。

皆さまのお越しを心よりお待ちいたしております。


ヴィンタートゥール展の思い出に・・・


ヴィンタートゥール展、毎日沢山のご来館をありがとうございます。

今回はミュージアムショップからお勧めのお土産をご紹介します。


1番人気は、当館所蔵のアンリ・ルソー作『フリュマンス・ビッシュの肖像』と、ヴィンタートゥールからやってきた同じくルソーの『赤ん坊のお祝い!』がコラボレーションした、紅茶のクッキー缶です。赤と白の色合いがスイスらしく、しかもセタビ限定販売なので、お土産に大人気です!クッキーを食べた後も、可愛らしい缶がいつまでも記念に残ります。


ヴィンタートゥールの世紀末


猛暑の中、大勢のお客様をお迎えしています。


ヴィンタートゥールという人口約10万人のスイスの小都市からやってきた作品たち。ポスターやチラシでおなじみのゴッホ、ルソーといった力強い作品のみならず、モネやゴーギャンの初期作品、ユトリロの逸品、ベックマンの静物など密かな名作ぞろいで、日本ではまったく知られていないこんな小さな町によくぞ集められたものと驚かされます。ちなみに、世田谷区は人口約80万・・・。


さてその中、密かに「ヴィンタートゥールの世紀末」と名づけたいのが、ルドンの花の静物を中心に、ロダンとロッソの人物彫刻をとりあわせて展示したコーナーです。正確にはルドン、ロダンは1900年を超えてからの作品ですが、象徴派の画家を中心にいかにも耽美的な世紀末の雰囲気を漂わせています。


特に、今年生誕150年を迎えるグスタフ・マーラーをロダンが捉えた頭像は、この異能の天才たちの出会いとして感慨深いものがあります。1909年この彫像のためにパリのロダンの前に座ったとき、マーラーはあの交響曲第9番をまさに執筆中でした。ルドンの《野の花》は、この天才たちへの献花とみることもできるでしょう。


そして、彫刻台から流れ出るようなアール・ヌーヴォー彫刻といってよい、ロッソの人物像。昨年は、オルセー美術館からアール・ヌーヴォーの工芸品を展示した世田谷に、ふたたび小さな世紀末が訪れています。


三重へ -橋本平八と北園克衛展-


青く澄みわたる空に白い入道雲が浮かび、

覆い茂る樹木、

その中に潜む蝉たち。

千も万もの音となり、一粒の水が滝となるがごとく

空間を埋め尽くす生命の叫び。

自然あふれる三重の夏は、今年特に熱いです。


彫刻家・橋本平八(1897-1935)は、幻想的な世界を生み出す木彫家として知られていますが、彼の弟さんのことはご存知でしょうか?


大正から昭和にかけてアヴァンギャルドな詩を発表し、のちに斬新な装幀も手掛けるようになった北園克衛(1902-1978、本名:橋本健吉)は、平八の実の弟でした。


一見、全く異なる分野で制作活動を行いながらも、密かにお互い刺激し合って制作活動を行った兄弟の展覧会が、三重県立美術館で始まりました。


東京より新幹線に乗り、名古屋駅で近鉄線に乗り換え、三重県の津へ。

展覧会開催に際し、オープニングが行われ、橋本平八の親族、北園克衛の研究家のジョン・ソルト氏がご出席されていました。また、三重県立美術館では、平八にシンパシーを抱いた彫刻家・戸谷成雄さんの特別展示も行われております。


この展覧会は、世田谷美術館と三重県立美術館と協働で準備した展覧会で、10月23日より世田谷美術館で開催されます。橋本平八の《花園に遊ぶ天女》は、三重県立美術館のみ、また《或る日の少女》と《裸形少年像》は世田谷美術館のみで公開です。


青い空と、樹々と、蝉の声


2人の兄弟も三重の地でその空気を吸い、香りを利き、三重の大空を眺めて芸術活動へ情熱を注いだことでしょう。三重の自然の豊かさを目の当たりにし、芸術へ心血を注いだ二人の兄弟の姿をうっすらと感じることができた旅でした。



写真:橋本平八(右)と北園克衛(左)、1925年頃


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