Ars cum natura ad salutem conspirat

彫刻家のいる場所


暑い夏も去り、10月に入って、ようやく秋めいてまいりました。12月23日から当館にて展覧会を開催予定の彫刻家、佐藤忠良先生のアトリエに調査に伺いました。

作家のアトリエというのは実に千差万別です。作品のジャンルによっても異なりますし、整然としている場合もあれば、他人から見るとそうではない場合も。ですが、どのような場合も作家の空気のようなものが漂っています。杉並区の閑静な住宅街にある佐藤先生のアトリエには、高い天井があり、当日はあいにくの雨でしたが、天気の日はさも気持ちがいいことだろうと思われる、とても開放感のあるつくりをしていました。奥の壁を中心に彫刻が、壁面の上部を使った特製の書棚に沢山の本が並んでいます。98歳になられた佐藤先生は、椅子にゆったりと座られながら、作業をする私たちに時おり優しい声をかけてくださいました。


今回展覧会に協力を頂いている宮城県美術館には記念館があるなど、全国的に佐藤忠良作品は収蔵されていますが、このアトリエにも沢山の作品があります。多くの人に親しまれている女性や子供の全身像・頭部像は、等身大に近いものもあれば、小さいものもあり、立ち並ぶ姿は非常にリズミカルです。また、佐藤先生は書籍の挿絵など絵の仕事もこれまで多くされています。『おおきなかぶ』、『ゆきむすめ』を、小さいころに読まれた方も多いのではないでしょうか。今回の調査では、展示予定の風景や樹のデッサンを中心に拝見しましたが、いずれも対象に向けられた真摯なまなざしが感じられました。


そのような佐藤先生の作品を見ているとつい忘れてしまいますが、ブロンズ彫刻というのは原型となる塑像を粘土で作らなければならず、それはたいへんな力仕事です。しかし、そういう工程を見る者に忘れさせてしまうほど、おのおのの作品はやわらかで、そのやわらかさが空気となってアトリエにも漂っているように感じました。そのあたりに、彫刻家・佐藤忠良たるゆえんがあると思うのですが、いかがでしょうか。あと三ヶ月、ぜひ展覧会を楽しみにお待ちください。


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