世田谷区にはかつて美しい森や小川、丘があり、そこに住む多くの人々は農業に従事し、牧歌的生活が営まれてきました。大正期に入ると東京中心部の環境問題が悪化し、関東大震災を契機に郊外に住宅を求める人が増えはじめました。世田谷は早くから公共の交通機関が発達し、また豊かな自然も残っていたこともあり、格好の住宅地であったわけです。渋沢栄一の提唱した“田園都市構想”や、小原國芳の行った成城学園を中心とする学園都市づくりをはじめ、留学経験者、政府関係の在外駐在員など、欧米生活の経験を持つ人々が建てたモダンでユニークな住宅は、自然と関わりながらその美しい姿を見せていました。しかし現在、そうした住宅の多くは失われつつあります。本展では大正期から昭和戦前期までに建築された個人住宅を中心として、田園と住宅のかかわりについて、そして歴史とともに変遷してきた住宅の様式やその美しさについて、模型、写真、図版などをもって紹介するものです。