本展は“東京”を主題に長年撮り続けてきた2人の写真家の仕事を、御紹介するものです。1913年(大正2年)生まれの桑原氏の写真歴は、すでに60年余りを数えようとしていますが、その初期から一貫とした体温を感じさせるような写真は、時代を超えて都市生活者の“生”を淡々としかも印象深く写し出しています。荒木氏は1960年代の人と顔をテーマにした写真から出発して、以来「ドキュメンタリー」と「私事」との狭間、つまり「遠景」と触覚すら感じさせる「超近景」との間を反復しながらあらゆる都市の構成物(構成者)をとらえています。そして何よりも重要なのはこの2人が描き出した「東京」は、こよなく「わが街」を愛する心と冷淡とも思える客体の眼という相反する両面の視点によって支えられているということです。従って今回出品される写真群は、時代や時間そのものを回顧し確認するには甚だ断片的であるにしても、私たちが「東京」を想い、今一度『私にとって東京とは何か・・・』を考えるためには十分な役割を果たすのではないかと思います。