Ars cum natura ad salutem conspirat

挿絵の奥深さ、ぜひご堪能ください


日差しや南風のなかに甘い匂いを感じる季節になりました。


とくに今日はコートを脱いでも汗ばむほどの陽気です。

自由が丘の駅前も沢山の人でにぎわっていました。

木陰のベンチでランチを楽しむ方たちもちらほら。

ベビーカーの赤ちゃんも笑っています。

また春がやってくるのですね。

春は出会いと別れの季節と言いますが、

展覧会も作品の入れ替えの時期です。

みなさま、開催中の「宮本三郎と連載小説」はもうご覧いただけましたでしょうか。


油彩の大作のほかにも、緻密な素描画や、人気女優をモデルにした華やかな表紙絵など

さまざまな作品を遺している宮本三郎ですが、小説の挿絵も数多く描きました。

なかでも獅子文六の作品への挿絵は多く、今回は『大番』という

『週刊朝日』での連載小説の挿絵に焦点をあてた展覧会です。


挿絵というと本の中に数ヵ所出てきて、読者の想像力の手助けをするもの、

というイメージではありませんか?

しかし『大番』の挿絵はそうではありません。

連載当時の小説の本文は4頁。そこに毎週2点の挿絵が載ったそうです。

ストーリーに合わせて、登場人物の喜怒哀楽が生き生きと描き出され、

挿絵ににつられるようにして物語の世界に入りこんでいくような、力強い存在感が感じられます。


仏師は木の中に仏のすがたを見出すと言いますが、

宮本三郎は活字の中から主人公の姿を削りだしたのかもしれません。


鮮やかな色はない世界ですが、

黒と白のコントラストだけで、その画力やセンス、ユーモアや時代性など、

さまざまなものが感じとれる展覧会です。


会期は3月21日までです。

寒さのゆるむこれからの時期、お散歩がてらにぜひお立ち寄りください。


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