Ars cum natura ad salutem conspirat

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陸奥への旅


未曽有の大災害が東北地方を襲ってから、1年3か月の月日が経ちました。このたびの一連の大災害に際しまして、亡くなられた多数の方々のご冥福を祈念し、謹んでお悔やみ申しあげますとともに、罹災された皆様に心よりお見舞い申しあげます。

さて、向井潤吉アトリエ館では、現在「向井潤吉 陸奥(みちのく)への旅」展を開催しております。“陸奥”と呼ばれる福島、宮城、岩手、青森は、向井が好んで歩き描いた場所です。後年には、岩手県一関で取り壊し寸前だった蔵を移築し、アトリエとして使っていた向井。東北地方とのゆかりの深さが伺えます。

その土蔵展示室1階には、現在、岩手に取材した作品が数多く並んでいます。陸奥の中でも、岩手は向井が最も好んで描いた場所。代表作《六月の田園》や《春映》のなだらかな山の稜線、水面に移る家々の姿は、いくら眺めても見飽きることがありません。

階段を上って、土蔵の2階に足を進めると、迎えてくれるのは青森の地を描いた作品群。空に立ちこめるブルーグレーの雲が印象的な《風と砂の村》と《層雲》は、ともに北津軽を描いた作品で、両壁に対をなすように展示されています。その中央には本州最北端を描いた《北端の村》。向井作品には珍しく海が描きこまれた作品です。向井夫人の出身地を描いた《室戸》と、海景の描写を比較してみるのも面白いかもしれません。

このほか、生前、向井が寝室として使用していた母屋2階の展示室では、福島を描いた作品郡を見ることができます。半生をかけて、失われてゆく心のふるさとを描き続けた向井。東日本大震災以降、今もかの地では、故郷を追われて暮らす人々がいることに胸が痛みます。

向井と東北の縁は、作品のみに留まりません。東北地方といえば、こけし。向井潤吉アトリエ館の和箪笥の上などにも、この可愛らしい郷土玩具が飾られていることをご存知でしたか。こけしコンクールの審査員を務めたこともある向井は、現地に赴いた際に、気に入ったこけしを買い求めていたそうです。当館にお越しの際は、是非愛らしいこけしたちの表情にも注目してみてください。皆様のご来館をお待ちしております。


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